がわざ/\磊落《らいらく》らしく装《よそほ》つて、剽軽《へうきん》なことを言つて、男のやうな声を出して笑ふのも、其為だらう。紅涙《なんだ》が克《よ》くお志保の顔を流れるのも、其為だらう。どうもをかしい/\と思つて居たことは、この敬之進の話で悉皆《すつかり》読めたのである。
長いこと二人は悄然《しよんぼり》として、互ひに無言の儘《まゝ》で相対《さしむかひ》に成つて居た。
第拾七章
(一)
勘定を済まして笹屋を出る時、始めて丑松は月給のうちを幾許《いくら》袂《たもと》に入れて持つて来たといふことに気が着いた。それは銀貨で五十銭ばかりと、外に五円|紙幣《さつ》一枚あつた。父の存命中は毎月|為替《かはせ》で送つて居たが、今は其を為《す》る必要も無いかはり、帰省の当時大分|費《つか》つた為に斯金《このかね》が大切のものに成つて居る、彼是《かれこれ》を考へると左様無暗には費はれない。しかし丑松の心は暗かつた。自分のことよりは敬之進の家族を憐むのが先で、兎《と》に角《かく》省吾の卒業する迄、月謝や何かは助けて遣《や》りたい――斯う考へるのも、畢竟《つまり》はお志保を思
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