身をもつて、何《なんに》も為《せ》ずに考へて居るといふことは、決して楽では無い。官費の教育を享《う》けたかはりに、長い義務年限が纏綿《つきまと》つて、否でも応でも其間厳重な規則に服従《したが》はなければならぬ、といふことは――無論、丑松も承知して居る。承知して居乍ら、働く気が無くなつて了つた。噫《あゝ》、朝寝の床は絶望した人を葬る墓のやうなもので有らう。丑松は復たそこへ倒れて、深い睡眠《ねむり》に陥入《おちい》つた。

       (二)

『瀬川先生、御客様でやすよ。』
 と喚起《よびおこ》す袈裟治の声に驚かされて、丑松は銀之助が来たことを知つた。銀之助ばかりでは無い、例の準教員も勤務《つとめ》の儘の服装《みなり》でやつて来た。其日は、地方を巡回して歩く休職の大尉とやらが軍事思想の普及を計る為、学校の生徒一同に談話《はなし》をして聞かせるとかで、午後の課業が休みと成つたから、一寸暇を見て尋ねて来たといふ。丑松は寝床の上に起直つて、半ば夢のやうに友達の顔を眺めた。
『君――寝て居たまへな。』
 斯う銀之助は無造作な調子で言つた。真実丑松をいたはるといふ心が斯《この》友達の顔色に表れる
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