わかし》を提げて入つて来た時、漸《やうや》く丑松は起上つて、茫然《ぼんやり》と寝床の上に座つて居た。寝過ぎと衰弱《おとろへ》とから、恐しい苦痛の色を顔に表して、半分は未だ眠り乍ら其処に座つて居るかのやう。『御飯を持つて来ませうか。』斯う袈裟治が聞いて見ても、丑松は食ふ気に成らなかつたのである。
『あゝ、気分が悪くて居なさると見える。』
 と独語《ひとりごと》のやうに言ひ乍ら、袈裟治は出て行つた。
 それは北国の冬らしい、寂しい日であつた。ちひさな冬の蠅は斯の部屋の内に残つて、窓の障子をめがけては、あちこち/\と天井の下を飛びちがつて居た。丑松が未だ斯の寺へ引越して来ないで、あの鷹匠町の下宿に居た頃は、煩《うるさ》いほど沢山蠅の群が集つて、何処《どこ》から塵埃《ほこり》と一緒に舞込んで来たかと思はれるやうに、鴨居だけばかりのところを組《く》んづ離《ほぐ》れつしたのであつた。思へば秋風を知つて、短い生命《いのち》を急いだのであらう。今は僅かに生残つたのが斯うして目につく程の季節と成つた。丑松は眺め入つた。眺め入り乍ら、十二月の近いたことを思ひ浮べたのである。
 斯《か》うして、働けば働ける
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