あつた。お志保は熟《じつ》と眺め入り乍ら、寺住の身と思比べて居たらしいのである。
『や、どうも今晩の御説教には驚きましたねえ。』と文平は住職に近いて言つた。『実に彼の白隠の歴史には感服して了ひました。まあ、始めてです、彼様《あゝ》いふ御話を伺つたことは。あの白隠が恵端禅師の許《ところ》へ尋ねて行く。あそこのところが私は気に入りました。斯う向ふの方から、掻集めた木葉を背負ひ乍ら、散切頭に髯茫々といふ姿で、とぼ/\と谷間を帰つて来る人がある。そこへ白隠が切込んで行つた。「そもさん。」――彼様《あゝ》いかなければ不可《いけ》ませんねえ。』と身振手真似を加へて喋舌《しやべ》りたてたので、住職はもとより、其を聞く人々は笑はずに居られなかつた。さうかうする中に、聴衆は最早《もう》悉皆《すつかり》帰つて了ふ。急に本堂の内は寂しく成る。若僧や子坊主は多忙《いそが》しさうに後片付。庄馬鹿は腰を曲《こゞ》め乍ら、畳の上の賽銭を掻集めて歩いた。
其時は最早《もう》丑松の姿が本堂の内に見えなかつた。丑松は省吾を連れて、蔵裏の方へ見送つて行つてやつた。丁度文平が奥様やお志保の側で盛んに火花を散らして居る間に、
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