いた。
『省吾さん。』と丑松は少年の横顔を熟視《まも》り乍ら、『君はねえ、家眷《うち》の人の中で誰が一番好きなんですか――父さんですか、母さんですか。』
省吾は答へなかつた。
『当てゝ見ませうか。』と丑松は笑つて、『父さんでせう?』
『いゝえ。』
『ホウ、父さんぢや無いですか。』
『だつて、父さんはお酒ばかり飲んでゝ――』
『そんなら君、誰が好きなんですか。』
『まあ、私《わし》は――姉さんでごはす。』
『姉さん? 左様かねえ、君は姉さんが一番好いかねえ。』
『私は、姉さんには、何でも話しやすよ、へえ父さんや母さんには話さないやうなことでも。』
斯《か》う言つて、省吾は何の意味もなく笑つた。
北の小座敷には古い涅槃《ねはん》の図が掛けてあつた。普通の寺によくある斯の宗教画は大抵|模倣《うつし》の模倣で、戯曲《しばゐ》がゝりの配置《くみあはせ》とか、無意味な彩色《いろどり》とか、又は熱帯の自然と何の関係も無いやうな背景とか、そんなことより外《ほか》に是《これ》ぞと言つて特色《とりえ》の有るものは鮮少《すくな》い。斯《こ》の寺のも矢張同じ型ではあつたが、多少創意のある画家《ゑかき》の
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