て、瀬川丑松といふ人を御覧なさい――どうでせう、彼《あ》の物を視る猜疑深《うたがひぶか》い目付なぞは。』
『はゝゝゝゝ、猜疑深いからと言つて、其が穢多の証拠には成らないやね。』
『まあ、聞いて下さい。此頃迄《こなひだまで》瀬川君は鷹匠《たかしやう》町の下宿に居ましたらう。彼《あ》の下宿で穢多の大尽が放逐されましたらう。すると瀬川君は突然《だしぬけ》に蓮華寺へ引越して了ひましたらう――ホラ、をかしいぢや有ませんか。』
『それさ、それを我輩も思ふのさ。』
『猪子蓮太郎との関係だつても左様《さう》でせう。彼様《あん》な病的な思想家ばかり難有《ありがた》く思はないだつて、他にいくらも有さうなものぢや有ませんか。彼様な穢多の書いたものばかり特に大騒ぎしなくても好ささうなものぢや有ませんか。どうも瀬川君が贔顧《ひいき》の仕方は普通の愛読者と少許《すこし》違ふぢや有ませんか。』
『そこだ。』
『未《ま》だ校長先生には御話しませんでしたが、小諸《こもろ》の与良《よら》といふ町には私の叔父が住んで居ます。其町はづれに蛇堀川《じやぼりがは》といふ沙河《すながは》が有まして、橋を渡ると向町になる――そこが所
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