文平は校長の側を離れて窓の方へ行つた。戸を開けて入つて来たのは丑松で、入るや否や思はず一歩《ひとあし》逡巡《あとずさり》した。
『何を話して居たのだらう、斯《こ》の二人は。』と丑松は猜疑深《うたぐりぶか》い目付をして、二人の様子を怪まずには居られなかつたのである。
『校長先生、』と丑松は何気なく尋ねて見た。『どうでせう、今日はすこし遅く始めましたら。』
『左様《さやう》――生徒は未《ま》だ集りませんか。』と校長は懐中時計を取出して眺める。
『どうも思ふやうに集りません。何を言つても、是雪ですから。』
『しかし、最早《もう》時間は来ました。生徒の集る、集らないは兎《と》に角《かく》、規則といふものが第一です。何卒《どうぞ》小使に左様言つて、鈴を鳴らさせて下さい。』
(二)
其朝ほど無思想な状態《ありさま》で居たことは、今迄丑松の経験にも無いのであつた。実際其朝は半分眠り乍ら羽織袴を着けて来た。奥様が詰て呉れた弁当を提げて、久し振で学校の方へ雪道を辿《たど》つた時も、多くの教員仲間から弔辞《くやみ》を受けた時も、受持の高等四年生に取囲《とりま》かれて種々《いろ/\》なこ
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