。斯う考へて、すこし安心して、さて顔を洗ふつもりで、急いで楼梯《はしごだん》を下りた。それにしても何の用事があつて、彼様《あん》な男が尋ねて来たらう。途中で一緒に成つてすら言葉も掛けず、見れば成る可く是方《こちら》を避《よ》けようとした人。其人がわざ/\やつて来るとは――丑松は客を自分の部屋へ通さない前から、疑心《うたがひ》と恐怖《おそれ》とで慄《ふる》へたのである。
(二)
『始めまして――私は高柳利三郎です。かねて御名前は承つて居りましたが、つい未《ま》だ御尋《おたづ》ねするやうな機会も無かつたものですから。』
『好く御入来《おいで》下さいました。さあ、何卒《どうか》まあ是方《こちら》へ。』
斯《か》ういふ挨拶を蔵裏の下座敷で取交して、やがて丑松は二階の部屋の方へ客を導いて行つた。
突然な斯の来客の底意の程も図りかね、相対《さしむかひ》に座《すわ》る前から、もう何となく気不味《きまづ》かつた。丑松はすこしも油断することが出来なかつた。とは言ふものゝ、何気ない様子を装《つくろ》つて、自分は座蒲団を敷いて座り、客には白い毛布を四つ畳みにして薦《すゝ》めた。
『まあ
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