》い洗《すゝ》ぎ湯《ゆ》の中へ足を浸した時の其丑松の心地は奈何《どんな》であつたらう。唯《たゞ》――お志保の姿が見えないのは奈何したか。人々の情を嬉敷《うれしく》思ふにつけても、丑松は心に斯《か》う考へて、何となく其人の居ないのが物足りなかつた。
其時、白衣《びやくえ》に袈裟《けさ》を着けた一人の僧が奥の方から出て来た。奥様の紹介《ひきあはせ》で、丑松は始めて蓮華寺の住職を知つた。聞けば、西京から、丑松の留守中に帰つたといふ。丁度町の檀家《だんか》に仏事が有つて、これから出掛けるところとやら。住職は一寸丑松に挨拶して、寺内の僧を供に連れて出て行つた。
夕飯《ゆふはん》は蔵裏の下座敷であつた。人々は丑松を取囲《とりま》いて、旅の疲労《つかれ》を言慰めたり、帰省の様子を尋ねたりした。煤けた古壁によせて、昔からあるといふ衣桁《えかう》には若い人の着るものなぞが無造作に懸けてある。其晩は学校友達の婚礼とかで、お志保も招ばれて行つたとのこと。成程《なるほど》左様《さう》言はれて見ると、其人の平常衣《ふだんぎ》らしい。亀甲綛《きつかふがすり》の書生羽織に、縞《しま》の唐桟《たうざん》を重ね、袖
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