はさも得意で居るらしい。
『それはまあ何よりだつた。失礼ながら、奥様《おくさん》は? 矢張《やはり》東京の方からでも?』
『はあ。』
 この『はあ』が丑松を笑はせた。
 談話《はなし》の様子で見ると、高柳夫婦は東京の方へ廻つて、江の島、鎌倉あたりを見物して来て、是から飯山へ乗込むといふ寸法らしい。そこは抜目の無い、細工の多い男だから、根津から直に引返すやうなことを為《し》ないで、わざ/\遠廻りして帰つて来たものと見える。さて、坊主を捕《つかま》へて、片腹痛いことを吹聴《ふいちやう》し始めた。聞いて居る丑松には其心情の偽《いつはり》が読め過ぎるほど読めて、終《しまひ》には其処に腰掛けても居られないやうになつた。『恐しい世の中だ』――斯う考へ乍ら、あの夫婦の暗い秘密を自分の身に引比べると、さあ何となく気懸りでならない。やがて、故意《わざ》と無頓着な様子を装《つくろ》つて、ぶらりと休茶屋の外へ出て眺めた。
 霙《みぞれ》は絶えず降りそゝいで居た。あの越後路から飯山あたりへかけて、毎年《まいとし》降る大雪の前駆《さきぶれ》が最早やつて来たかと思はせるやうな空模様。灰色の雲は対岸に添ひ徊徘《さま
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