曲川《ちくまがは》の畔《ほとり》へ出て来た。急いで蟹沢の船場迄行つて、便船《びんせん》は、と尋ねて見ると、今々飯山へ向けて出たばかりといふ。どうも拠《よんどころ》ない。次の便船の出るまで是処《こゝ》で待つより外は無い。それでもまだ歩いて行くよりは増だ、と考へて、丑松は茶屋の上《あが》り端《はな》に休んだ。
霙《みぞれ》が落ちて来た。空はいよ/\暗澹《あんたん》として、一面の灰紫色に掩《おほ》はれて了《しま》つた。斯うして一時間の余も待つて居るといふことが、既にもう丑松の身にとつては、堪へ難い程の苦痛《くるしみ》であつた。それに、道を急いで来た為に、いやに身体《からだ》は蒸《む》されるやう。襯衣《シャツ》の背中に着いたところは、びつしより熱い雫《しづく》になつた。額に手を当てゝ見れば、汗に濡《ぬ》れた髪の心地《こゝろもち》の悪さ。胸のあたりを掻展《かきひろ》げて、少許《すこし》気息《いき》を抜いて、軈《やが》て濃い茶に乾いた咽喉《のど》を霑《うるほ》して居る内に、ポツ/\舟に乗る客が集つて来る。あるものは奥の炬燵《こたつ》にあたるもあり、あるものは炉辺へ行つて濡れた羽織を乾すもあり、中
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