先生」ですからねえ。はゝゝゝゝ。』
 細君は苦笑ひをしながら聞いて居た。
 軈て、切符を売出した。人々はぞろ/\動き出した。丁度そこへ弁護士、肥大な体躯《からだ》を動《ゆす》り乍ら、満面に笑《ゑみ》を含んで馳け付けて、挨拶する間も無く蓮太郎夫婦と一緒に埒《らち》の内へと急いだ。丑松も、入場切符を握つて、随いて入つた。
 四番の上りは二十分も後れたので、それを待つ旅客は『プラットホオム』の上に群《むらが》つた。細君は大時計の下に腰掛けて茫然《ばうぜん》と眺め沈んで居る、弁護士は人々の間をあちこちと歩いて居る、丑松は蓮太郎の傍を離れないで、斯うして別れる最後の時までも自分の真情を通じたいが胸中に満ち/\て居た。どうかすると、丑松は自分の日和下駄の歯で、乾いた土の上に何か画《か》き初める。蓮太郎は柱に倚凭《よりかゝ》り乍ら、何の文字とも象徴《しるし》とも解らないやうなものが土の上に画かれるのを眺め入つて居た。
『大分汽車は後れましたね。』
 といふ蓮太郎の言葉に気がついて、丑松は下駄の歯の痕《あと》を掻消して了《しま》つた。すこし離れて斯《こ》の光景《ありさま》を眺めて居た中学生もあつたが、
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