、丑松は先輩と細君とが斯ういふ談話《はなし》を為るのを聞いた。
『大丈夫だよ、左様《さう》お前のやうに心配しないでも。』と蓮太郎は叱るやうに。
『その大丈夫が大丈夫で無いから困る。』と細君は歩き乍ら嘆息した。『だつて、貴方は少許《ちつと》も身体を関はないんですもの。私が随いて居なければ、どんな無理を成さるか知れないんですもの。それに、斯の山の上の陽気――まあ、私は考へて見たばかりでも怖《おそろ》しい。』
『そりやあ海岸に居るやうな訳にはいかないさ。』と蓮太郎は笑つて、『しかし、今年は暖和《あたゝか》い。信州で斯様《こん》なことは珍しい。斯の位の空気を吸ふのは平気なものだ。御覧な、其証拠には、信州へ来てから風邪一つ引かないぢやないか。』
『でせう。大変に快《よ》く御成《おなん》なすつたでせう。ですから猶々《なほ/\》大切にして下さいと言ふんです。折角《せつかく》快く成りかけて、復《ま》た逆返《ぶりかへ》しでもしたら――』
『ふゝ、左様《さう》大事を取つて居た日にや、事業《しごと》も何も出来やしない。』
『事業? 壮健《たつしや》に成ればいくらでも事業は出来ますわ。あゝ、一緒に東京へ帰つて
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