度高柳夫婦が新婚旅行にでも出掛けようとするところ。無論|先方《さき》では知るまいが、確に是方《こちら》では後姿を見届けたとのことであつた。
『実に驚くぢやないか。』と蓮太郎は嘆息した。『瀬川君、君はまあ奈何《どう》思ふね、彼の男の心地《こゝろもち》を。これから君が飯山へ帰つて見たまへ――必定《きつと》あの男は平気な顔して結婚の披露を為るだらうから――何処《どこ》か遠方の豪家からでも細君を迎へたやうに細工《こしら》へるから――そりやあもう新平民の娘だとは言ふもんぢやないから。』
斯ういふ話を始めたところへ、下女が膳を持運んで来た。皿の上の鮠《はや》は焼きたての香を放つて、空腹《すきばら》で居る二人の鼻を打つ。銀色の背、樺《かば》と白との腹、その鮮《あたら》しい魚が茶色に焼け焦げて、ところまんだら味噌の能《よ》く付かないのも有つた。いづれも肥え膏《あぶら》づいて、竹の串に突きさゝれてある。流石《さすが》に嗅ぎつけて来たと見え、一匹の小猫、下女の背後《うしろ》に様子を窺《うかゞ》ふのも可笑《をか》しかつた。御給仕には及ばないを言はれて、下女は小猫を連れて出て行く。
『さあ、先生、つけませう
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