何卒《どうか》して『紳士』の尊称を得たいと思つて居る程。恐らく上流社会の華《はな》やかな交際は、彼が見て居る毎日の夢であらう。孔雀の真似を為《す》る鴉《からす》の六左衛門が東京に別荘を置くのも其為である。赤十字社の特別社員に成つたのも其為である。慈善事業に賛成するのも其為である。書画|骨董《こつとう》で身の辺《まはり》を飾るのも亦た其為である。彼程《あれほど》学問が無くて、彼程蔵書の多いものも鮮少《すくな》からう、とは斯界隈《このかいわい》での一つ話に成つて居る。
斯ういふことを語り乍ら歩いて行くうちに、二人は六左衛門の家の前へ出て来た。丁度午後の日を真面《まとも》にうけて、宏壮《おほき》な白壁は燃える火のやうに見える。建物|幾棟《いくむね》かあつて、長い塀《へい》は其|周囲《まはり》を厳《いかめ》しく取繞《とりかこ》んだ。新平民の子らしいのが、七つ八つを頭《かしら》にして、何か『めんこ』の遊びでもして、其塀の外に群り集つて居た。中には頬の紅《あか》い、眼付の愛らしい子もあつて、普通の家の小供と些少《すこし》も相違の無いのがある。中には又、卑しい、愚鈍《おろか》しい、どう見ても日蔭者
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