へ叔父も帰つて来たので、暫時《しばらく》上《あが》り端《はな》のところに腰掛けて休んだ。叔父は酷《ひど》く疲れたといふ風、家の内へ入るが早いか、『先づ、よかつた』を幾度と無く繰返した。何もかも今は無事に済んだ。葬式も。礼廻りも。斯ういふ思想《かんがへ》は奈何《どんな》に叔父の心を悦《よろこ》ばせたらう。『ああ――これまでに漕付《こぎつ》ける俺の心配といふものは。』斯う言つて、また思出したやうに安心の溜息を吐くのであつた。『全く、天の助けだぞよ。』と叔父は附加して言つた。
 平和な姫子沢の家の光景《ありさま》と、世の変遷《うつりかはり》も知らずに居る叔父夫婦の昔気質《むかしかたぎ》とは、丑松の心に懐旧の情を催さした。裏庭で鳴き交す鶏の声は、午後の乾燥《はしや》いだ空気に響き渡つて、一層|長閑《のどか》な思を与へる。働好な、壮健《たつしや》な、人の好い、しかも子の無い叔母は、いつまでも児童《こども》のやうに丑松を考へて居るので、其|児童扱《こどもあつか》ひが又、些少《すくな》からず丑松を笑はせた。『御覧やれ、まあ、あの手付なぞの阿爺《おやぢ》さんに克く似てることは。』と言つて笑つた時は、思
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