記憶といふものは妙なもので、長く/\忘れて居た昔の習慣を思出した。一体普通の客に茶を出さないのは、穢多の家の作法としてある。煙草《たばこ》の火ですら遠慮する。瀬川の家も昔は斯ういふ風であつたので其を破つて普通の交際を始めたのは、斯《こ》の姫子沢へ移住《ひつこ》してから以来《このかた》。尤《もつと》も長い月日の間には、斯の新しい交際に慣れ、自然《おのづ》と出入りする人々に馴染《なじ》み、茶はおろか、物の遣り取りもして、春は草餅を贈り、秋は蕎麦粉《そばこ》を貰ひ、是方《こちら》で何とも思はなければ、他《ひと》も怪みはしなかつたのである。叔母が斯様《こん》な昔の心地《こゝろもち》に帰つたは近頃無いことで――それも其筈《そのはず》、姫子沢の百姓とは違つて気恥しい珍客――しかも突然《だしぬけ》に――昔者の叔母は、だから、自分で茶を汲む手の慄へに心付いた程。蓮太郎は其様《そん》なことゝも知らないで、さも/\甘《うま》さうに乾いた咽喉《のど》を濡《うるほ》して、さて種々《さま/″\》な談話《はなし》に笑ひ興じた。就中《わけても》、丑松がまだ紙鳶《たこ》を揚げたり独楽《こま》を廻したりして遊んだ頃の物
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