名)が堆高《うづたか》く盛上げられ、咲残る野菊の花も土足に踏散らされてあつた。人々は土を掴《つか》んで、穴をめがけて投入れる。叔父も丑松も一塊《ひとかたまり》づゝ投入れた。最後に鍬《くは》で掻落した時は、崖崩れのやうな音して烈しく棺の蓋を打つ。それさへあるに、土気の襄上《のぼ》る臭気《にほひ》は紛《ぷん》と鼻を衝《つ》いて、堪へ難い思をさせるのであつた。次第に葬られて、小山の形の土饅頭が其処に出来上るまで、丑松は考深く眺め入つた。叔父も無言であつた。あゝ、父は丑松の為に『忘れるな』の一語《ひとこと》を残して置いて、最後の呼吸にまで其精神を言ひ伝へて、斯うして牧場の土深く埋もれて了つた――もう斯世《このよ》の人では無かつたのである。

       (六)

 兎《と》も角《かく》も葬式は無事に済《す》んだ。後の事は牧場の持主に頼み、番小屋は手伝ひの男に預けて、一同姫子沢へ引取ることになつた。斯《こ》の小屋に飼養《かひやしな》はれて居る一匹の黒猫、それも父の形見であるからと、しきりに丑松は連帰らうとして見たが、住慣《すみな》れた場処に就く家畜の習ひとして、離れて行くことを好まない。物を呉
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