なきがら》を納めたといふは、極《ご》く粗末な棺。其|周囲《まはり》を白い布で巻いて、前には新しい位牌《ゐはい》を置き、水、団子、外には菊、樒《しきみ》の緑葉《みどりば》なぞを供へてあつた。読経も一きりになつた頃、僧の注意で、年老いた牧夫の見納めの為に、かはる/″\棺の前に立つた。死別の泪《なみだ》は人々の顔を流れたのである。丑松も叔父に導かれ、すこし腰を曲《こゞ》め、薄暗い蝋燭《らふそく》の灯影に是世の最後の別離《わかれ》を告げた。見れば父は孤独な牧夫の生涯を終つて、牧場の土深く横はる時を待つかのやう。死顔は冷かに蒼《あをざ》めて、血の色も無く変りはてた。叔父は例の昔気質《むかしかたぎ》から、他界《あのよ》の旅の便りにもと、編笠、草鞋《わらぢ》、竹の輪なぞを取添へ、別に魔除《まよけ》と言つて、刃物を棺の蓋の上に載せた。軈《やが》て復《ま》た読経《どきやう》が始まる、木魚の音が起る、追懐の雑談は無邪気な笑声に交つて、物食ふ音と一緒になつて、哀しくもあり、騒がしくもあり、人々に妨げられて丑松は旅の疲労《つかれ》を休めることも出来なかつた。
一夜は斯ういふ風に語り明した。小諸の向町へは通知
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