供ですからねえ。まあ、私は母のことを克《よ》く覚えても居ない位なんです――実際母親といふものゝ味を真実《ほんたう》に知らないやうなものなんです。父親《おやぢ》だつても、矢張|左様《さう》で、この六七年の間は一緒に長く居て見たことは有ません。いつでも親子はなれ/″\。実は父親も最早《もう》好い年でしたからね――左様《さう》ですなあ貴方の父上《おとつ》さんよりは少許《すこし》年長《うへ》でしたらう――彼様《あゝ》いふ風に平素《ふだん》壮健《たつしや》な人は、反《かへ》つて病気なぞに罹《かゝ》ると弱いのかも知れませんよ。私なぞは、ですから、親に縁の薄い方の人間なんでせう。と言へば、まあお志保さん、貴方だつても其御仲間ぢや有ませんか。』
斯《こ》の言葉はお志保の涙を誘ふ種となつた。あの父親とは――十三の春に是寺へ貰はれて来て、それぎり最早《もう》一緒に住んだことがない。それから、あの生《うみ》の母親とは――是はまた子供の時分に死別れて了つた。親に縁の薄いとは、丁度お志保の身の上でもある。お志保は自分の家の零落を思出したといふ風で、すこし顔を紅《あか》くして、黙つて首を垂れて了つた。
そのお
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