人だけ子供を連れて、父の留守に家出をしたものらしい。それは継母が自分で産んだ子供のうち、三番目のお末を残して、進に、お作に、それから留吉と、斯《か》う引連れて行つた。割合に温順《おとな》しいお末を置いて、あの厄介者のお作を腰に付けたは、流石《さすが》に後のことをも考へて行つたものと見える。継母が末の児を背負《おぶ》ひ、お作の手を引き、進は見慣《みな》れない男に連れられて、後を見かへり/\行つたといふことは、近所のかみさんが来ての話で解つた。
 斯ういふ中にも、ひとり力に成るのは音作で、毎日夫婦して来て、物を呉れるやら、旧《むかし》の主人をいたはるやら、お末をば世話すると言つて、自分の家の方へ引取つて居るとのこと。貧苦の為に離散した敬之進の家族の光景《ありさま》――まあ、お志保が銀之助に話して聞かせたことは、ざつと斯うであつた。
『して見ると――今御家にいらつしやるのは、父親《おとつ》さんに、貴方に、それから省吾さんと、斯う三人なんですか。』銀之助は気の毒さうに尋ねたのである。
『はあ。』とお志保は涙ぐんで、垂下る鬢《びん》の毛を掻上げた。

       (二)

 丑松のことは軈《やが》て二人の談話《はなし》に上つた。友に篤い銀之助の有様を眺めると、お志保はもう何もかも打明けて話さずには居られなかつたのである。其時、丑松の逢ひに来た様子を話した。顔は蒼《あを》ざめ、眼は悲愁《かなしみ》の色を湛《たゝ》へ、思ふことはあつても十分に其を言ひ得ないといふ風で――まあ、情が迫つて、別離《わかれ》の言葉もとぎれ/\であつたことを話した。忘れずに居る程のなさけがあらば、せめて社会《よのなか》の罪人《つみびと》と思へ、斯《か》う言つて、お志保の前に手を突いて、男らしく素性を告白《うちあ》けて行つたことを話した。
『真実《ほんたう》に御気の毒な様子でしたよ。』とお志保は添加《つけた》した。『いろ/\伺つて見たいと思つて居りますうちに、瀬川さんはもう帽子を冠つて、さつさと出て行つてお了ひなさる――後で私はさん/″\泣きました。』
『左様《さう》ですかあ。』と銀之助も嘆息して、『あゝ、僕の想像した通りだつた。定めし貴方《あなた》も驚いたでせう、瀬川君の素性を始めて御聞きになつた時は。』
『いゝえ。』お志保は力を入れて言ふのであつた。
『ホウ。』と銀之助は目を円《まる》くする。
『だつ
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