。見れば校長で、何か穿鑿《さぐり》を入れるやうな目付して、何時の間にか腰掛のところへ来て佇立《たゝず》んで居た。
『今――新聞を読んで居たところです。』と丑松は何気ない様子を取装《とりつくろ》つて言つた。
『新聞を?』と校長は不思議さうに丑松の顔を眺めて、『へえ、何か面白い記事《こと》でも有ますかね。』
『ナニ、何でも無いんです。』
暫時《しばらく》二人は無言であつた。校長は窓の方へ行つて、玻璃越《ガラスご》しに空の模様を覗《のぞ》いて見て、
『瀬川君、奈何でせう、斯の御天気は。』
『左様ですなあ――』
斯ういふ言葉を取交し乍ら、二人は一緒に講堂を出た。並んで階段を下りる間にも、何となく丑松は胸騒ぎがして、言ふに言はれぬ不快な心地《こゝろもち》に成るのであつた。
邪推かは知らないが、どうも斯《こ》の校長の態度《しむけ》が変つた。妙に冷淡《しら/″\》しく成つた。いや、冷淡しいばかりでは無い、可厭《いや》に神経質な鼻でもつて、自分の隠して居る秘密を嗅ぐかのやうにも感ぜらるゝ。『や?』と猜疑深《うたぐりぶか》い心で先方《さき》の様子を推量して見ると、さあ、丑松は斯の校長と一緒に並んで歩くことすら堪へ難い。どうかすると階段を下りる拍子に、二人の肩と肩とが触合《すれあ》ふこともある。冷《つめた》い戦慄《みぶるひ》は丑松の身体を通して流れ下るのであつた。
小使が振鳴らす最終《をはり》の鈴の音は、其時、校内に響き渡つた。そここゝの教室の戸を開けて、後から/\押して出て来る少年の群は、長い廊下に満ち溢《あふ》れた。丑松は校長の側を離れて、急いで斯の少年の群に交つた。
やがて生徒は雪道の中を帰つて行つた。いづれも学問する児童《こども》らしい顔付の殊勝さ。弁当箱を振廻して行くもあれば、風呂敷包を頭の上に戴《の》せて行くもある。十露盤《そろばん》小脇に擁《かゝ》へ、上草履提げ、口笛を吹くやら、唱歌を歌ふやら。呼ぶ声、叫ぶ声は、犬の鳴声に交つて、午後の空気に響いて騒しく聞える、中には下駄の鼻緒を切らして、素足で飛んで行く女の児もあつた。
不安と恐怖との念《おもひ》を抱き乍ら、丑松も生徒の後に随いて、学校の門を出た。斯《か》うしてこの無邪気な少年の群を眺めるといふことが、既にもう丑松の身に取つては堪へがたい身の苦痛《くるしみ》を感ずる媒《なかだち》とも成るので有る。
『省吾さん
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