悲しけれ
捨てつ拾ひつこの命
行きつ運《めぐ》りつこの環《たまき》
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落葉松の樹
落葉松《からまつ》の樹はありとても
石南花《しやくなげ》の花さくとても
故郷《ふるさと》遠き草枕
思はなにか慰まむ
旅寢は胸も病むばかり
沈む憂は醉ふがごと
獨りぬる夜の夢にのみ
たゞ夢にのみ山路を下る
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ふと目はさめぬ
ふと目は覺めぬ五とせの
心の醉に驚きて
若き是身《このみ》をながむれば
はや吾春は老いにけり
夢の心地《こゝち》も甘かりし
昔は何を知れとてか
清《すず》しき星も身を呪ふ
今は何をか思へとや
剛愎《かたくな》なりし吾さへも
折れて泣きしは戀なりき
荒き胸にも一輪の
花をかざすは戀なりき
勇める馬の狂ひいで
鬣《たてがみ》長く嘶きて
風こゝちよき青草の
野邊を蹄に履《ふ》むがごと
又は眼《まなこ》も紫に
胸より熱き火を吹きて
汲めど盡きせぬ眞清水の
泉に喘《あへ》ぎよるがごと
若き心の躍りては
軛《くびき》も綱も捨てけりな
こがれつ醉ひつ筆振れば
筆神ありと思ひてき
あゝうつくしき花草は
咲く間を待たで萎《しぼ》むらむ
消《き》
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