身を
旅といふこそうれしけれ
常世《とこよ》に長き天地《あめつち》を
宿といふこそをかしけれ

青き山邊は吾枕
花さく野邊は吾衾《わがしとね》
星縫ふ空は吾帳《わがとばり》
さかまく海は吾緒琴《わがをごと》

 いづこよりとは告げがたし
 いづこまでとは言ひがたし

いま日の光いま嵐
來る歡樂《たのしみ》哀傷《かなしみ》の
人のさかりをかりそめに
夏といはむもおもしろや

あゝわれひとの知らぬ間に
心の色は褪せ易し
胸うち掩ふ緑葉《みどりば》の
若き命もいくばくぞ

 かんばせの花紅き子も
 あはれや早く翁顏

あるひは高く撃てれども
翅碎けて八重|葎《むぐら》
あるひは遠く舞へれども
望は落ちて塵|埃《あくた》

譽も聲も浮ける雲
すぐれし才はいづこぞや
涙も夢も草の雨
流れて更に音も無し

 思うて誰か傷まざる
 歩みて誰か迷はざる

人の命を兒童《わらはべ》の
※[#「口+喜」、第3水準1−15−18]戲《たはれ》と言ふは誰が言葉
賤も聖《ひじり》も丈夫《ますらを》も
兒童《わらはべ》ならぬものやある

晝には晝に遊ぶべし
夜には夜に遊ぶべし
破りはつべき世ならねば
身は狂ふこそ
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