えはてにけり吾戀は
藝術《たくみ》諸共《もろとも》消えにけり
そは何故のうき世にて
人に誠はありながら
戀路の末はとこしへの
冬を生命《いのち》に刻《きざ》むらむ
黒髮われを覆ふとも
血潮はわれを染むるとも
花|口脣《くちびる》を飾るとも
思は胸を傷《いた》ましむ
繪筆うちふる吾指は
歎きのために震ふかな
涙に濡るゝ吾紙は
象《かたち》空《むな》しく消《き》ゆるかな
かはりはてたる吾命
かはりはてたる吾思
かはりはてたる吾戀路
かはりはてたる吾|藝術《たくみ》
この世はあまり實《み》にすぎて
あたら吾身は夢ばかり
なぐさめもなき幻《まぼろし》の
境に泣きてさまよふわれは
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縫ひかへせ
縫ひかへせ縫ひかへせ
膩《あぶら》に染みし其袂
涙に濡れし其袂
濯《すゝ》げよさらば嘆かずもがな
縫ひかへせ縫ひかへせ
君が衣を縫ひかへせ
愁《うれひ》は水に汗は瀬に
濯《すゝ》げよさらば嘆かずもがな
縫ひかへせ縫ひかへせ
捨てよ昔の夢の垢《あか》
やめよ甲斐なき物思
濯《すゝ》げよさらば嘆かずもがな
縫ひかへせ縫ひかへせ
腐れて何の袖かある
勞《つか》れて何の道
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