てわかれををしむより
人目の關はへだつとも
あかぬむかしぞしたはしき

形となりて添はずとも
せめては影と添はましを
たがひにおもふこゝろすら
裂きて捨つべきこの世かな

おもかげの草かゝるとも
古《ふ》りてやぶるゝ壁のごと
君し住まねば吾胸は
つひにくだけて荒れぬべし

一歩に涙五歩に血や
すがたかたちも空の虹
おなじ照る日にたがらへて
永き別れ路見るよしもなし
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 罪なれば物のあはれを


罪なれば物のあはれを
こゝろなき身にも知るなり
罪なれば酒をふくみて
夢に醉ひ夢に泣くなり

罪なれば親をも捨てて
世の鞭を忍び負ふなり
罪なれば宿を逐はれて
花園に別れ行くなり

罪なれば刃に伏して
紅き血に流れ去るなり
罪なれば手に手をとりて
死の門にかけり入るなり

罪なれば滅び碎けて
常闇《とこやみ》の地獄のなやみ
嗚呼|二人《ふたり》抱《いだ》きこがれつ
戀の火にもゆるたましひ
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 風よ靜かにかの岸へ


風よ靜かに彼《か》の岸へ
こひしき人を吹き送れ
海を越え行く旅人の
群《むれ》にぞ君はまじりたる

八重の汐路をかき分けて
行くは僅に舟一葉
底|白波
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