せば
野邊に萌《も》え君に踏まれて
かつ靡きかつは微笑《ほゝゑ》み
その足に觸れましものを

わがなげき衾に溢れ
わがうれひ枕を浸す
朝鳥に目さめぬるより
はや床は濡れてたゞよふ

口脣《くちびる》に言葉ありとも
このこゝろ何か寫さむ
たゞ熱き胸より胸の
琴にこそ傳ふべきなれ
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 君こそは遠音に響く


君こそは遠音に響く
入相の鐘にありけれ
幽かなる聲を辿りて
われは行く盲目《めしひ》のごとし

君ゆゑにわれは休まず
君ゆゑにわれは仆れず
嗚呼われは君に引かれて
暗き世をわづかに搜る

たゞ知るは沈む春日の
目にうつる天《そら》のひらめき
なつかしき聲するかたに
花深き夕を思ふ

吾足は傷つき痛み
吾胸は溢れ亂れぬ
君なくば人の命に
われのみや獨《ひとり》ならまし

あな哀《かな》し戀の暗には
君もまた同じ盲目《めしひ》か
手引せよ盲目《めしひ》の身には
盲目《めしひ》こそうれしかりけれ
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 こゝろをつなぐしろかねの


こゝろをつなぐ銀《しろかね》の
鎖も今はたえにけり
こひもまこともあすよりは
つめたき砂にそゝがまし

顏もうるほひ手もふるひ
逢う
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