銀の花霏々として
吹雪の煙|闇《くら》き時
四方は氷に閉されて
江海も音《おと》をひそむ時
汝《いまし》緑の蔭も朽ちせず
空を凌ぐは何の力ぞ
立てよ友なき野邊の帝王《すめらぎ》
ゆゝしく高く立てよ常盤樹
汝《いまし》の長き春なくば
山の命も老いなむか
汝《いまし》の深き息なくば
谷の響も絶えなむか
あしたには葉をうつ霙
ゆふべには枝うつ霰
千草も知らぬ冬の日の
嵐に叫ぶうきなやみ
いづれの日にか
氷は解けて
其葉の涙
消えむとすらむ
あゝよしさらば枝も摧《くだ》けて
終の色の落ちなむ日まで
雲浮かば
無縫の天衣
風立たば
不朽の緒琴
おごそかに
立てよ常盤樹
あら雄々しきかな傷ましきかな
かの常盤樹の落ちず枯れざる
常盤樹の枯れざるは
百千《もゝち》の草の落つるより
傷ましきかな
[#改ページ]
寂寥
岸の柳は低くして
羊の群の繪にまがひ
野薔薇の幹は埋もれて
流るゝ砂に跡もなし
蓼科山《たでしなやま》の山なみの
麓をめぐる河水や
魚住む淵に沈みては
鴨の頭の深緑
花さく岩にせかれては
天の鼓の樂の音
さても水瀬はくちなはの
かうべをあげて奔るごと
白波高くわだつみに
流れて下
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