れしけれ
危ふきばかりともすれば
波にゆらるゝこの舟の
行くへを照らせ燐の火よ
海よりいでて海を焚く
青きほのほの影の外
道しるべなき今の身ぞ
碎かば碎けいざさらば
波うつ櫂はこゝにあり
たとへ舟路は暗くとも
世に勝つ道は前にあり
あゝ新潮《にひじほ》にうち乘りて
命運《さだめ》を追うて活《い》きて歸らむ
[#改丁]
落梅集より
明治三十二年――同三十三年
(小諸にて)
[#改丁]
常盤樹
あら雄々しきかな傷ましきかな
かの常盤樹の落ちず枯れざる
常盤樹の枯れざるは
百千の草の落つるより
傷ましきかな
其枝に懸る朝の日
其幹を運《めぐ》る夕月
など行く旅の迅速《すみやか》なるや
など電の影と馳するや
蝶の舞
花の笑
など遊ぶ日の世に短きや
など其醉の早く醒むるや
蟲草の葉に悲めば
一時《ひととき》にして既に霜
鳥潮の音に驚けば
一時にして既に雪
木枯高く秋落ちて
自然の色はあせゆけど
大力《だいりき》天を貫きて
坤軸遂に靜息《やすみ》なし
ものみな速くうらがれて
長き寒さも知らぬ間に
汝《いまし》千歳の時に嘯き
獨りし立つは何の力ぞ
白
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