あゝ一時《ひととき》の
      春やいづこに

色をほこりしあさみどり
わかきむかしもありけるを
今はしげれる夏の草
  あゝ一時《ひととき》の
      春やいづこに

梅も櫻もかはりはて
枝は緑《みどり》の酒のごと
醉うてくづるゝ夏の夢
  あゝ一時《ひととき》の
      春やいづこに
[#改丁]

  夏草より
     明治三十一年
       (木曾福島にて)
[#改丁]

 子兎のうた


ゆきてとらへよ
   大麥の
畠《はた》にかくるゝ
   小兎《こうさぎ》を

われらがつくる
   麥畠《むぎはた》の
青くさかりと
   なるものを

たわにみのりし
   穗のかげを
みだすはたれの
   たはむれぞ

麥まきどりの
   きなくより
丸根《まるね》に雨の
   かゝるまで

朝露《あさつゆ》しげき
   星影《ほしかげ》に
片《かた》さがりなき
   鍬《くは》まくら

ゆふづゝ沈む
   山のはの
こだまにひゞく
   はたけうち

われらがつくる
   麥畠《むぎはた》の
青くさかりと
   なるものを

ゆきてとらへよ
   大麥の
畠にかくるゝ
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