ゆかしかるべき
  かをかげば

  わがくれなゐの
  かほばせに
  とゞめもあへぬ
  なみだかな

  くさふみわくる
  こひつじよ
  なれものずゑに
  まよふみか

  さまよひやすき
  たびびとよ
  なあやまりそ
  ゆくみちを

  龍《たつ》を刻みし宮柱《みやばしら》
  ふとき心はありながら
  薄き命のはたとせの
  名殘は白き瓶《かめ》ひとつ

  たをらるべきをいのちにて
  はなさくとにはあらねども
  朝露《あさつゆ》おもきひとえだに
  うれひをふくむ花瓶《はながめ》や

  あゝあゝ清き白雪《しらゆき》は
  つもりもあへず消ゆるごと
  なつかしかりし友の身は
  われをのこしてうせにけり

  せめては白き花瓶《はながめ》よ
  消えにしあとの野の花の
  色にもいでよわが友の
  いのちの春の雪の名殘を
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 銀河


天《あま》の河原《かはら》を
  ながむれば
星の力《ちから》は
  おとろへて
遠きむかしの
  ゆめのあと
こゝにちとせを
  すぎにけり

そらの泉《いづみ》を
  よのひとの
汲むにまかせて
 
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