つるわが友の
うきなみだよりいでこしを
ゆめにたはふれ夢に醉ひ
さむるときなきわが友の
名殘は白き花瓶《はながめ》に
あつきなみだの殘るかな
にごりをいでてさくはなに
にほひありとなあやしみそ
光《ひかり》は高き花瓶《はながめ》に
戀の嫉妬《ねたみ》もあるものを
命運《さだめ》をよそにかげろふの
きゆるためしぞなしといへ
あまりに薄き縁《えにし》こそ
友のこのよのいのちなれ
やがてさかえむゆくすゑの
ひかりも待たで夏の夜の
短かき夢は燭火《ともしび》の
花と散りゆきはかなさや
つゆもまだひぬみどりばの
しげきこずゑのしたかげに
ほとゝぎすなく夏のひの
もろ葉がくれの青梅《あをうめ》も
夏の光のかゞやきて
さつきの雨のはれわたり
黄金《こがね》いろづく梅が枝《え》に
たのしきときやあるべきを
胸の青葉のうらわかみ
朝露《あさつゆ》しげきこずゑより
落ちてくやしき青梅《あをうめ》の
實《み》のひとつなる花瓶《はながめ》よ
いのちは薄き蝉の羽の
ひとへごろものうらもなく
はじめて友の戀歌《こひうた》を
花影《はなかげ》にきてうたふとき
緑のいろの夏草の
あしたの露にぬるゝご
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