の黒繻子の帶かとぞ見る黒雲《くろくも》の
羽袖のうちにつゝまれて姿はいつか消えにけり
あゝさだめなき大空《おほぞら》のけしきのとくもかはりゆき
闇《くら》きあらしのをさまりて光にかへる海原や
細くかゝれる彩雲《あやぐも》はゆかりの色の濃紫
薄紫のうつろひに樂しき園となりけらし
命を岩につなぎては細くも絲をかけとめて
腋羽《ほろば》につゝむ頭《かしら》をばうちもたげたる若鷲の
鉤《はり》にも似たる爪先の雨にぬれたる岩ばなに
かたくつきたる一つ羽《は》はそれも名殘か老鷲の
霜ふりかゝる老鷲の一羽《ひとは》をくはへ眺むれば
夏の光にてらされて岩根にひゞく高潮《たかしほ》の
碎けて深き海原《うなばら》の岩角《いはかど》に立つ若鷲は
日影にうつる雲さして行くへもしれず飛ぶやかなたへ
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白磁花瓶賦
みしやみぎはの白あやめ
はなよりしろき花瓶《はながめ》を
いかなるひとのたくみより
うまれいでしとしるやきみ
瓶《かめ》のすがたのやさしきは
根ざしも清き泉より
にほひいでたるしろたへの
こゝろのはなと君やみむ
さばかり清きたくみぞと
いひたまふこそうれしけれ
うらみわび
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