とに仆るゝ夫鳥《つまどり》の
羽《はね》は血汐の朱《あけ》に染《そ》み
あたりにさける花紅し
あゝあゝ熱き涙かな
あるに甲斐なき妻鳥は
せめて一聲鳴けかしと
屍《かばね》に嘆くさまあはれ
なにとは知らぬかなしみの
いつか恐怖《おそれ》と變りきて
思ひ亂れて音《ね》をのみぞ
鳴くや妻鳥《めどり》の心なく
我を戀ふらし音《ね》にたてて
姿も色もなつかしき
花のかたちと思ひきや
かなしき敵《てき》とならむとは
花にもつるゝ蝶あるを
鳥に縁《えにし》のなからめや
おそろしきかな其の心
なつかしきかな其の情《なさけ》
紅《あけ》に染《そ》みたる草見れば
鳥の命のもろきかな
火よりも燃ゆる戀見れば
敵《てき》のこゝろのうれしやな
見よ動きゆく大空の
照る日も雲に薄らぎて
花に色なく風吹けば
野はさびしくも變りけり
かなしこひしの夫鳥《つまどり》の
冷えまさりゆく其姿
たよりと思ふ一ふしの
いづれ妻鳥《めどり》の身の末ぞ
恐怖《おそれ》を抱く母と子が
よりそふごとくかの敵《てき》に
なにとはなしに身をよする
妻鳥《めどり》のこゝろあはれなれ
あないたましのながめかな
さきの樂しき花
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