ちりて
空色暗く一彩毛《ひとはけ》の
雲にかなしき野のけしき

行きてかへらぬ鳥はいざ
夫《つま》か妻鳥《めどり》か燕子花
いづれあやめを踏み分けて
野末を歸る二羽の※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》
[#改ページ]

 林の歌


力を刻《きざ》む木匠《こだくみ》の
うちふる斧のあとを絶え
春の草花《くさばな》彫刻《ほりもの》の
鑿《のみ》の韻《にほひ》もとゞめじな
いろさまざまの春の葉に
青一筆《あをひとふで》の痕《あと》もなく
千枝《ちえ》にわかるゝ赤樟《あかくす》も
おのづからなるすがたのみ
檜《ひのき》は荒し杉直し
五葉は黒し椎の木の
枝をまじふる白樫や
樗《あふち》は莖をよこたへて
枝と枝とにもゆる火の
なかにやさしき若楓

   山精
  ひとにしられぬ
  たのしみの
  ふかきはやしを
  たれかしる

  ひとにしられぬ
  はるのひの
  かすみのおくを
  たれかしる

   木精
  はなのむらさき
  はのみどり
  うらわかぐさの
  のべのいと

  たくみをつくす
  大機《おほはた》の
  梭《をさ》のはやしに
  きたれかし

  
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