き白妙の
雪をあざむくばかりなり

力《ちから》あるらし聲たけき
敵《かたき》のさまを懼れてか
聲色《いろ》あるさまに羞ぢてかや
妻鳥《めどり》は花に隱れけり

かくと見るより堪へかねて
背《せ》をや高めし夫鳥《つまどり》は
羽がきも荒く飛び走り
蹴爪に土をかき狂ふ

筆毛のさきも逆立《さかだ》ちて
血潮《ちしほ》にまじる眼のひかり
二つの※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》のすがたこそ
是《これ》おそろしき風情《ふぜい》なれ

妻鳥《めどり》は花を馳け出でて
爭鬪《あらそひ》分くるひまもなみ
たがひに蹴合ふ蹴爪《けづめ》には
火焔《ほのほ》もちるとうたがはる

蹴るや左眼《さがん》の的《まと》それて
羽《はね》に血しほの夫鳥《つまどり》は
敵《てき》の右眼《うがん》をめざしつゝ
爪も折れよと蹴返しぬ

蹴られて落つるくれなゐの
血汐の花も地に染みて
二つの※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》の目もくるひ
たがひにひるむ風情なし

そこに聲あり涙あり
爭ひ狂ふ四つの羽《はね》
血潮《のり》に滑りし夫鳥《つまどり》の
あな仆れけむ聲高し

一聲長く悲鳴して

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