の花に蝶と蜘蛛
小蜘蛛は花を守《まも》り顏
小蝶は花に醉ひ顏に
舞へども舞へどもすべぞなき
花は小蜘蛛のためならば
小蝶の舞《まひ》をいかにせむ
花は小蝶のためならば
小蜘蛛の糸をいかにせむ
やがて一つの花散りて
小蜘蛛はそこに眠れども
羽翼《つばさ》も輕き小蝶こそ
いづこともなくうせにけれ
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別離
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人妻をしたへる男の山に登り其
女の家を望み見てうたへるうた
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誰《たれ》かとどめむ旅人《たびびと》の
あすは雲間《くもま》に隱るゝを
誰か聞くらむ旅人の
あすは別れと告げましを
清《きよ》き戀とや片《かた》し貝《がひ》
われのみものを思ふより
戀はあふれて濁《にご》るとも
君に涙をかけましを
人妻《ひとづま》戀ふる悲しさを
君がなさけに知りもせば
せめてはわれを罪人《つみびと》と
呼びたまふこそうれしけれ
あやめもしらぬ憂《う》しや身は
くるしきこひの牢獄《ひとや》より
罪の鞭責《しもと》をのがれいで
こひて死なむと思ふなり
誰《たれ》かは花をたづねざる
誰かは色彩《いろ》に迷はざる
誰かは前にさける見て
花
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