庭にたちいでたゞひとり
秋海棠の花を分け
空ながむれば行く雲の
更《さら》に祕密《ひみつ》を闡《ひら》くかな
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 母を葬るのうた

  うき雲はありともわかぬ大空の
      月のかげよりふるしぐれかな

きみがはかばに
    きゞくあり
きみがはかばに
    さかきあり

くさはにつゆは
    しげくして
おもからずやは
    そのしるし

いつかねむりを
    さめいでて
いつかへりこむ
    わがはゝよ

紅羅《あから》ひく子も
    ますらをも
みなちりひぢと
    なるものを

あゝさめたまふ
    ことなかれ
あゝかへりくる
    ことなかれ

はるははなさき
    はなちりて
きみがはかばに
    かゝるとも

なつはみだるゝ
    ほたるびの
きみがはかばに
    とべるとも

あきはさみしき
    あきさめの
きみがはかばに
    そゝぐとも

ふゆはましろに
    ゆきじもの
きみがはかばに
    こほるとも

とほきねむりの
    ゆめまくら
おそるゝなかれ
    わがはゝよ
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