色はもみぢに染めかへて
霜葉《しもば》をかへす秋風の
空《そら》の明鏡《かゞみ》にあらはれぬ
清《すゞ》しいかなや西風の
まづ秋の葉を吹けるとき
さびしいかなや秋風の
かのもみぢ葉《ば》にきたるとき
道を傳ふる婆羅門《ばらもん》の
西に東に散《ち》るごとく
吹き漂蕩《たゞよは》す秋風に
飄《ひるがへ》り行く木《こ》の葉《は》かな
朝羽《あさば》うちふる鷲鷹《わしたか》の
明闇天《あけくれそら》をゆくごとく
いたくも吹ける秋風の
羽《はね》に聲《こゑ》あり力《ちから》あり
見ればかしこし西風の
山の木《こ》の葉《は》をはらふとき
悲しいかなや秋風の
秋の百葉《もゝは》を落すとき
人は利劍《つるぎ》を振《ふる》へども
げにかぞふればかぎりあり
舌は時世《ときよ》をのゝしるも
聲はたちまち滅《ほろ》ぶめり
高くも烈《はげ》し野も山も
息吹《いぶき》まどはす秋風よ
世をかれがれとなすまでは
吹きも休《や》むべきけはひなし
あゝうらさびし天地《あめつち》の
壺《つぼ》の中《うち》なる秋の日や
落葉と共に飄《ひるがへ》る
風の行衞《ゆくへ》を誰か知る
[#改ページ]
雲のゆくへ
前へ
次へ
全100ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング