に
笛の小竹《をだけ》や曇るらむ
髮は亂れて落つるとも
まづ吹き入るゝ氣息《いき》を聽け
力《ちから》をこめし一ふしに
黄楊《つげ》のさし櫛《ぐし》落ちにけり
吹けば流るゝ流るれば
笛吹き洗ふわが涙
短き笛の節《ふし》の間《ま》も
長き思《おもひ》のなからずや
七つの情《こゝろ》聲を得て
音《ね》をこそきかめ歌神《うたがみ》も
われ喜《よろこび》を吹くときは
鳥も梢に音《ね》をとゞめ
怒《いかり》をわれの吹くときは
瀬《せ》を行く魚も淵《ふち》にあり
われ哀《かなしみ》を吹くときは
獅子《しし》も涙をそゝぐらむ
われ樂《たのしみ》を吹くときは
蟲も鳴く音《ね》をやめつらむ
愛《あい》のこゝろを吹くときは
流るゝ水のたち歸り
惡《にくみ》をわれの吹くときは
散り行く花も止《とゞま》りて
慾《よく》の思《おもひ》を吹くときは
心の闇《やみ》の響《ひゞき》あり
うたへ浮世《うきよ》の一ふしは
笛の夢路《ゆめぢ》のものぐるひ
くるしむなかれ吾《わが》友《とも》よ
しばしは笛の音《ね》に歸《かへ》れ
落つる涙をぬぐひきて
靜かにきゝね吾笛を
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