ノ持ちあげ、いかにも無造作にその下を掃いてゐた。その力に恐れをなしてか、それぎり娘のところへからかひに來る若者もなくなつたともいふ。こんな愛くるしい娘の小さな肉體に宿つためづらしい力は、おそらく親讓りのものであつたらう。
すでに肉體の力が遺傳するものとすれば、精神力といふべきものも祖先から傳はりもしようし、子孫に遺りもしよう。それの絶えることもあらう。また、それの再び生きるといふこともあらう。
思はずわたしはこんなことを書きつけて見た。それにつけても、又聞きにしたある僧の話を思ひ出す。その人が十歳ばかりの少年の身をある寺の和尚の許に寄せてゐた頃、思ひがけない問を出されて面喰つたことがあつたといふ。和尚尋ねて曰く、『お前はどうしたら俺のやうな和尚になれると考へるか』と。そこで少年が答へた。『飯《まゝ》食つて寢て、飯食つて寢て、大きくなれば和尚さまのやうになれます』と。その答へをきくと、和尚はいきなり鞭を持つて來て少年の頭をなぐりつけたとの話である。この少年は十歳ばかりの年頃に一生忘れがたいやうな力餅を味はつたのであらう。そして、和尚から貰つた力でも、長い生涯の間にはそれを自分のも
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