フに變へることも出來たのであらう。さう思ふと、力は不思議なものだ。
三義鳩の記
平和の使者ともいふべき姿をもつて戰亂の空に迷ひ、兵火と砲彈とのために廢墟のやうになつた市街の建造物の間に見出されたといふ一羽の鳩の風情は、かの佛蘭西近代の畫家シャ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ンヌが好んで描いた壁畫の中にでも持つて行つて見たいほどのものである。ましてそれの見出されたのは、黄浦口に臨む上海《シャンハイ》で、東洋のマルセエユにも譬へたいところであり、かの畫家の製作を思ひ出させるやうな活きた歴史のかず/\を語る國際的の港だからである。
この鳩を見出した西村眞琴君は昨年一月より三月に亙る上海市街戰の空氣の中で、大阪毎日及び東京日日新聞社を代表し陣中慰問使としてかの地に赴いた人であると聞く。君がそんな小さなものを見つけた深い印象は忘れがたいほどのものであつたと見え、どうかして養ひたいとの念から、困難な旅の中にもその事に心を碎き、國にまで伴なひ歸つたといふことである。當時に於ける上海の風物の薄暗い空氣に包まれた中で、何等かの安らかさを君等にさゝやき、陣中愛撫の的となつたのも、こ
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