l得して還つたといふ話をわたしの許に置いて行つた。弱い人間もそこまで行けば、果實ぐらゐの食に露命をつなぎとめて、人並以上の力を囘復することも出來るものか。病める身が追々と丈夫になり、高い木の枝ぐらゐには飛びつけるやうになり、しまひには重い岩石をも動かすほどの力の持主となり得たといふことだ。

 世には天性肉體の力にすぐれたものもある。さういふ力の持主はどこの國でも人に騷がれると見える。佛蘭西あたりの少年の讀本の中にもすぐれた力持のことが面白く語つてあつたやうに覺えてゐる。どこそこの家には代々力持が出るといふやうな話のあるのを見ても、肉體の力は遺傳するものらしい。その力が婦人に傳はると、その人一代かぎりで絶えるとも聞く。川越の隱居が實母に當る人はわたしも逢つたことのないおばあさんであるが、めづらしい力を持つた娘のことがそのおばあさんの生前の咄しの中によく出たとか。飛んだ器量好しで、まことに愛くるしく見えるところから、どこかの商家にその娘が奉公してゐた頃、うるさくからかひに來る店の若者もすくなくなかつたといふ。ある日のこと、その娘は臺所を掃除しようとして、そこに有り合ふ大きな重い酒樽を片手
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