ンは短かつたが、わたしたちは君の家族をこの地に見るだけにも滿足した。南の一方に開けて、東と北と西とに山を負ふ盆地の地勢をなした京都の市街の一部を君等が住居の二階から、又、樂しい樹蔭の多い若王寺の裏山の位置から望み見るだけにも滿足した。せめてこの都會に北西の山の間が開けてゐたら、とは今度來て見て、胸に浮べたことだ。この夏季の熱と光とを防ぐために、京都人は二階を低くし、窓を狹くし、格子を深くし、壁を厚くし、部屋を暗くして住むとも聞く。これを知つて見ると、わたしは今まで漠然としか抱いてゐなかつた吾國の古典にある季節の感じを改めてかゝらねばならないやうな氣もする。もう一度清少納言なぞの書きのこしたものをあけて見たら、京都の夏がいろ/\とあの草紙の中に見つけられて、例へば結縁《けちえん》の説教を聽きに行つた日の暑さの描寫なぞも、今までよりはつきりと感じられるであらうと思ふ。兎に角、わたしたちは關東の氣分で京都にある一切のものを呑み込み易い。やさしい京都言葉ですら、その實弱々しいものではない。よく聽いて見れば、一語々々張りのある抑揚の響きをもつてゐる。これほどのアクセントも東京言葉にはないもののや
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