カ活から娯樂や運動の上に及び、通信交通の機關を換へるばかりでなく、印刷出版の面目をも改めつゝある。衣に、食に、住に、今日ほど新舊のものがめまぐるしく入り亂れてゐる時代もめづらしい。急激に時世後れになつて行く古い習慣がある。眼前には廢れて行く古くからの風俗がある。誰もがこの光景を目撃しながら、その感知したところのものを容易に言ひあらはせないでゐる。そこで要領のいゝ人達があつて、あるひは科學の浸潤、あるひは器械の發達、あるひは國際關係の激變、その他種々な言葉をもつて、その光景を私達に指摘して見せて呉れる。いづれにしても私達はこのめまぐるしい時代に處して、一方には近代的な施設を受け容れ、一方にはテンポの速さに應じて行かねばならぬ。これは一種の洪水だ。世界的の氾濫だ。こんな時に行き惱むもののあるのはむしろ當然で、それを見て嘲笑の聲を浴せかけるのは、無情と言はねばならない。
『無才無能にしてこの一筋につながると言つた昔の人もあるやうですが、私はそれほど自分を責めるでもなく、寢ごとを書いて暮すうちに、最早五十代を終らうとしてゐます。』
こんなことを書いて去年の冬の『新潮』に寄せたこともある。人
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