だ。軒先には枝ぶりおもしろい梨の木もあつて、その風情のある青い葉が客間からも食堂からも見られた。それが花から實に變る頃には澁くて食はれない『かりん』の實に似たものが成るとの細君の話も出た。果樹として無能無用に近いこんな梨の木ではあるが、風にも日の光にも敏感で、君が家族のすべての人達に愛されてゐた。
午後、和辻君は紫野の大徳寺へ案内しようと言つて呉れた。一臺の自動車は君等を載せ、お孃さんを載せ、元氣な夏彦君を載せ、家内とは舊い馴染の信子さんを載せ、そこへわたしたちまで割り込んだ時は車の上は二家族のものでこぼれるばかり。乘つて行つた先は洛北の地で、あの額田女王の古歌にある紫野のあととはこゝかとも想像して見たが、そのことはよく分らない。西陣の工藝地を通り過ぎて行つたところに大徳寺の古めかしい境内があつた。一休禪師の木像の安置してある眞珠庵を訪ねて、その一隅に遺つた利休の茶室を見る。庵主の僧も不在の時で、茶室の窓々はしめきつてあつたから、そこいらは薄暗い。僅かに案内の少年があけて呉れた一方の窓から古い床の間の壁に射し入る光線があるばかり。わたしたちは昔の人の意匠を前にして、心靜かに時を送るこ
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