轣Aわたしの仕事のあひまを見ては、一年に四度づゝはかならず上京し、吾家に滯在することを樂しみにしてゐる。
[#ここで字下げ終わり]
九日。
[#ここから1字下げ]
きのふは一日手紙を書いて暮した。あれも、これも、と心にかゝることはありながら、最早何となく小旅行の氣分が浮んで來た。旅する豫定の日數も短かいから、出掛ける前日をも旅のうちに數へて、けふは細見京繪圖大全としてある文久版の古い京都の地圖なぞを取り出して見た。
[#ここで字下げ終わり]
十日。
[#ここから1字下げ]
京都蛸藥師通り富小路西入る、千切屋に投宿。
[#ここで字下げ終わり]
十一日。
[#ここから1字下げ]
朝早く中京の町を歩いて見た。この小さな旅には家内を連れて來て、若王寺にある和辻君の家族を訪ねるといふたのしみがあつた。さすがに清げに住みなしてあつた。六疊の客間には座蒲團が五つに、煙草盆が三つも出た。晝すこし前に、和辻君に案内されて君の書齋を見、眺望のある二階の部屋へも上つて見た。夏はその二階も暑いと聞くが、でもそんなところに寢ころんで、青い楓の映る天井を眺めながら、裏山の小鳥の聲でも聽いて見たらばと思ふやうなとこ
前へ
次へ
全195ページ中89ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング