したといふことは、どんな新しい文學を豫感しての結果であつたか、それは推しはかれるかぎりでもないが、君が殘したかず/\の新鮮な作品と、この世に盡し得なかつた抱懷とは、わたしなぞのやうに長く文章に從事するものの垢を洗つて呉れるであらう。短篇集『酒盜人』、『鬼涙村』の二卷は、折を得て更によく讀みかへして見たい。
好き距離
[#天から10字下げ](岡崎義惠君が新著『日本文藝學』の出版をよろこびて)
蜘蛛といふものは、みづからの細い糸に身を托し、風の來るのを待つて、物と物との間をつなぐ好き距離を見つける。學者が古典探求の態度はまさにかくのごときものであらうか。日本の文藝も最近には學としてその方法と體系とを探し求めようとする岡崎義惠君のやうな熱心な學者がまとまつた研究を發表するところまで進んで來た。同君が長い年月をかけて見究めようとしてゐる物のあはれ、それから有心と幽玄の考察なぞは、中世時代の文藝から近代のそれへかけての間をつなぐ好き距離とも言つて見たいもので、近頃有益な文字であつたと思ふ。
日本海と太平洋
過去の日本人が日本海であるとするなら、現代の日本人は太平洋
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