君を見つけたといふに過ぎない。君の自敍傳によると、君は自身を裸島へ泳ぎついた漂流者に譬へてゐる。この漂流者は日々の營みを怠らずあちこちと移り住んだが、わづかな風にさへその打ち建てた小屋は忽ち吹き飛んで未だに家を成さないとも言つてゐる。それを君は運命的であると考へるやうになつて行つた人のやうでもあるし、またそんな昨日の自己を絶對の姿とは考へたくないと言ふ人ででもあつた。君はいつも自身の文章を讀み返すと、凡ての過去そのものの如く、いつそ自烈《じれ》つたいといふ氣を起した。君は一切の過去を棄却しなければならないとした。容易ならぬ人間の脱皮だ。それには身をもつて當らねばならない。君はその邊の深い消息を僅かに『文學的自敍傳』の終の方に泄らして置いて、それぎり歸つて來ない人のやうになつてしまつた。
 何としても君の最後は傷ましい。筆執り物書くものに取つてはひとごととも思はれない。わたしのやうにして君の出發を迎へたものが、今また君を惜しむ諸君の仲間入りをして、こんな記念をこゝに書きつけるといふことは、これも何かの縁かと思ふ。生前の君が泳ぎついたその裸島にゐて、絶望と陶醉との底から身をも心をも起さうと
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