とをも知つてゐるのだ。あの飛行家が他の飛行を試みるものに殘したといふ言葉は、おそらくあらゆる技藝の祕訣もそこにあららうと思はれるもので、わたしは新聞紙上にその消息の傳へてあつたのを讀み、今だに忘れがたく思つてゐる。その言葉、
『なるべく高く飛べ。そして又、なるべく眞ツ直ぐに飛べ。』

     歴史と傳説と實相

 歴史と傳説とは曾てごく雜然とわたしの内に同棲してゐたやうなものであつた。この二つの區別に氣づくと氣づかないとでは、いろ/\な過去の物語を讀んで見る上にも、文學制作の方法の上にも、あるひは文學以外の藝術を識別する上にも、格段な差があるのに、長いことわたしはそんな區別を考へて見ようともしなかつた。
 しかし、一度そこへ氣づいて見ると、これまで遠山の花でも望むやうにごく漠然としか看てゐなかつたあの『雨月物語』や『春雨物語』の作者が日本の文學史上にある位置なぞもはつきりして來たし、『白峯』、『淺茅が宿』、『蛇性の婬』、乃至『目一つの神』なぞに見るやうな特殊な文體の生れたこともわかつて來たし、傳説を傳説として取り扱つた上田秋成には元祿の作者にもない別の高さのあることもはつきりして來た
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